品質マネジメントシステムに関する国際規格ISO 9001は2008年に追補改訂が行われ、現在の最新版は、ISO 9001:2008となっています。この規格の改訂に伴い、2009年11月15日以降の認証は、ISO 9001:2008に基づいて行わなければならないことが決定しています。(JIS Q 9001の場合には2009年12月20日以降、全てJIS Q 9001:2008に基づいて行われる。)
審査機関によってその対応に多少の差はあるものの、2009年10月以降に更新審査を受ける組織は、受審までにISO 9001:2008への対応を完了しておく必要があります。
また、ISO 9001:2000に基づく認証は、2010年11月15日をもって失効(JISの場合は、2010年12月20日)するため、認証の継続を希望する場合、全ての組織はそれまでの定期維持審査(サーベイランス)等の機会を捉えてISO 9001:2008への移行を完了する必要があります。
それでは、認証取得している組織は、ISO9001:2008への移行のために何をすれば良いのでしょうか?
ISO 9001:2008は、ISO 9001:2000の要求事項を一切変えることなく、規格の解釈の曖昧さを取り除き、ISO 14001との両立性を高めることを目的として改訂されています。
このような改訂の性格から“追補改訂”と位置付けられています。
従って組織のISO 9001に基づく品質マネジメントシステムが完全にISO 9001:2000に対応しているならば、その品質マネジメントシステムを一切変更することなくISO 9001:2008への適合性を示すことができるはずです。
当社では、多くの企業様のISO 9001:2008への移行を支援させて頂いておりますが、現実はそれほど簡単ではないようです。
ISO 9001:2008への適合性の診断を実施すると、大多数の企業においてISO 9001:2000への適合性の面で課題が発見されます。
その代表的な問題点には以下のようなものがあります。
(1)適用されるべき要求事項が適用除外とされている。
(2)適用範囲に含まれる業務の実施手順が品質マニュアル中に規定されていない。
(1)のケースは7.3 設計・開発のプロセスや、7.6 監視機器及び測定機器の管理のプロセスに多く見られるようです。“設計・開発に該当する業務が行われているにも関わらず適用除外にされている。”あるいは、“監視機器及び測定機器に該当するものがあるにも関わらずその管理が明確にされていない。”などの例があります。これは、ISO 9001認証取得にあたって審査上問題が発生することを嫌って出来るだけ適用除外とする一時期の風潮を、そのまま引きずっているものかも知れません。
(2)については、適用範囲には“保守・メンテナンスサービス”が含まれているのに実際には、保守・メンテナンスの手順が、品質マニュアルの中では規定(あるいは引用)されていないなどのケースもあります。これは、ISO 9001の要求事項を組織の業務に当てはめてしまっていることから生じているものと思われます。実際には、要求事項を組織に当てはめるのではなく、組織の業務プロセスに要求事項を適用することが重要です。
ISO 9001:2008の改訂作業においては、“Output Matters”の議論に多くの時間が費やされたようです。Output Mattersとは、『ISO 9001が規定する品質マネジメントシステムは、“要求事項を満たした製品を一貫して提供し、顧客満足を向上させるためのものである” と適用範囲に規定されているにもかかわらず、現実には “ ISO 9001に適合していると判断されていても要求事項を満たす製品を提供できないことがある” という問題提起。』です。品質マネジメントシステムの運用による成果に多少なりとも疑問を感じることのある組織においては、ISO 9001:2008への移行を契機に、“ISO 9001の要求事項が十分に活用されているか?” という観点から品質マネジメントシステムの見直しを実施する必要があるのではないでしょうか?
品質マネジメントシステムの運用による成果を享受するためには、ISOを忌むべきものとして取り扱うのではなく、ひとつのツールとして使いこなすことが必要です。